秒速5センチメートルが好きすぎて遂に種子島まで行ってしまった記録。

1日目

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桜島
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旅をすると大抵猫に会う

羽田空港から鹿児島空港、鹿児島からジェットフォイルで種子島へ。
到着前、目の前にある種子島の右側に屋久島が見えて、
山のようにゴツゴツした様子が、真っ平な種子島と極端に違って印象深かった。

種子島に到着すると母からメールがあり、
ロケットみちびきの打ち上げがあると初めて知る。

到着してからは島の中央、中種子町を目指してひたすら歩く。
バスという選択肢もあったがルートがよく分からないし、
できることなら運賃を節約したかった。ので歩きを選択。
しかし、思っていた以上に種子島は広かった。
歩けど歩けど辿り着く気配すらない。
というか2時間ほど歩いて目標の半分以下の距離だったので、
完全に詰んでいた。

途中、ガスボンベを鹿児島本土で買い忘れたことに気づき、購入した。
1本単位では売っていなかったので泣く泣く3本セットで購入するしかなく、
ただでさえ重い荷物が余計に重たくなった。

気付けば陽は完全に沈み、街灯もほとんどないので、辺りは闇に包まれる。
真っ暗な中、時折通る車の存在に安心感を覚えては、道路のすぐ隣で打ち付ける波の音をBGM代わりに歩く、歩く。

これは旅と言えるのか、荷物を持って歩いているただの家出少年、あるいは浮浪者ではないのか。
警察に職務質問されたらリュックの中からガスボンベが3本も出てきて、怪しまれないだろうか。
中学時代、塾帰りに後ろのパトカーに道を譲ろうと自転車を加速させたら、
逃げたと勘違いされて住宅地でドでかいサイレンを鳴らされて止めさせられた苦い思い出が蘇る。
バックの中身まで確認してきたあの時の警察官はえらく高圧的だった。
でも種子島にはそんな高圧的な警察官はいなそうだし、
なんなら事情を説明したら、交番に泊めてくれるなんてミラクルがあっても良さそうな気がした。
しかし、あいにく目の前にはパトカーのパの字も無いような平和でのどかな風景が広がっていた。

などとあれこれ考えながら黙々と歩き続けた。

20時過ぎ、ロケット打ち上げ時間になった。
本当に打ち上げられるのか母の情報を若干疑っていたのだけれど、ちゃんと打ち上がった。
ありがとう母よ。

発射台のある方向が神々しく光りだして、辺りを明るく照らし出す。
その光は小さい太陽みたいに丸くなって、そのまま空へと昇っていった。
ゴゴッゴゴッという鈍い音が数十秒してから遅れて聞こえてくる中、目の前の光景にただ見とれていた。
ロケットは花火のように真上に打ちあがると思っていたけれど、
地球の軌道に乗るために、斜め方向に飛んでいくのだと知った。

最初は大きく輝いていたロケットも、時間が経つにつれて小さくなり、
やがて空に光る星と同じくらいの大きさになり、そして消えていった。
私は、ロケットの打ち上げを見たのだ。

打ち上げを見た高揚感と、疲労感が重なって歩く気力がなくなったので、
適当な空き地にテントを張って休むことに決める。

夕飯のカレーうどんを食べながら、明日はバスで移動しようと決めた。

夜、テントに横になると満点の星空が目の前に広がった。
靄がかかったように見えたのはおそらく天の川。
10分に1回は流れ星が落ちていた。
「すご!」
「やば!」
疲れて完全に語彙力が無くなっており、そんな驚きの言葉を一人テントの中であげる。
この景色は生涯忘れられないだろうな、なんて思ってぼんやりしていると、 気づいた時には眠りについていた。




2日目

早朝に起きてバスで移動する。 時間通りにやってきたバスに乗り込むと、 20分程度で市街地に到着した。 ありがとう文明の利器。ありがとうバスの運転手さん。

自分が人間に生まれたことに感謝しつつ、 今日の目的地、中山海岸まで歩く。

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秒速5センチメートル的風景
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中山海岸

到着後、茂みにリュックを隠して身軽になる。
今日は中山海岸周辺のスポットを巡る予定だ。もちろん歩きで。
夏のジリジリと照りつける太陽の下を歩き続け、
各スポットを巡った。

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二人が寄り道してた丘
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秒速5センチメートル的風景
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アイショップ石堂店
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アイショップ石堂店のベンチ
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買うのはもちろんこの組み合わせ
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花苗ちゃん家の通り
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町内放送のところのカット
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ロケット打ち上げ時のカット
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第3話のカット
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お夕飯(お米2号も炊いちゃって苦しかった…)
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中山海岸の海

中山海岸に戻ってきたのは15時くらいで、
昼兼夕飯を食べてから、地元の高校生が泳いでいるのを見て、自分も海で泳いだりした。

サーファー用のシャワーが設置されていて、体を洗えたのがとてもありがたかった。
ありがとう文明の利器。

海岸の奥の目立たないところにテントを張って夜を迎える。
今日も素敵な星空が広がっていて、地面は砂で柔らかく、流れ星まで見えるスイートルームだ。 がしかし、津波が来たら間違いなくテントもろとも流されるような立地だったので、
目が覚めたら太平洋に漂流していた、なんてことがないよう願いつつ、眠った。




3日目

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朝日

お世話になった中山海岸を後にして、種子島空港の方面を目指す。

途中、町内のスーパーへ立ち寄り、物資を補給する。
レトルト系のご飯ばかり食べているからか、野菜が食べたくなったので、
サラダを食べる。日焼けした体に染み渡るビタミン群達。うまい。

種子島空港ではコインロッカーにリュックを預け、また身軽になる。
今日はこの周辺の散策をするが、昨日よりは回るスポットが少ないので気が楽だ。

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旧種子島空港
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中種子高校閉校記念の焼酎(凄い託けて作った感!)
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種子島中央高校
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単車置場
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種子島的風景
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種子島的風景
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秒速5センチメートル的風景
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種子島的風景
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第3話で映るポスト
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二人が歩いて帰った道
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秒速5センチメートル的風景
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お楽しみ

のんびりと歩きながら各スポットを回り、夕方には空港へ戻ってきた。
最後の飛行機が離陸するのを近くの展望台(丘?)から眺め、
この日も適当な場所へテント設営。
先ほどのスーパーで買った焼酎を飲みながら、今日一日を振り返った。

種子島で周る予定のスポットは今日の時点で全て訪問し終えているので、
明日は岐路につくだけだ。

深夜、突然の雨が降ってきて、慌ててテントカバーを被せる。
濡れた体が寒かったので、テント内でコンロを焚いてしのぐ。
ありがとう文明の利器。
雨はしばらくしてから止んだが、雲の流れは速く、
今日は流れ星は見えそうになかった。




4日目

朝、寒くて目が覚めたので、テントの中でサッポロ一番塩ラーメンを調理して食べた。
南の島でサッポロ一番を食す、というよくわからないギャップを感じつつ、
暖かいラーメンが冷たい体に染み入り美味しかった。

ちなみに持参したテントは寝るだけのスペースが確保された棺型のテントだったので、テント内で調理する時はうつ伏せで肘をついた状態で行っていた。
テント設計者もまさか中で料理をするなんて使い方は想定していなかっただろう。
火事にならなくてよかったと思う。
下手したら棺型テントが本当の棺になっていたところだった。
命があるって素晴らしい。

朝日が昇り、徐々に暖かくなっていく。
お天道様の有難さといったら!

テントを回収した後は西之表までバスで移動。
お土産を買ったり、のんびりとした時間を過ごす。
行きと同じようにジェットフォイルに乗って鹿児島本土へ。

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大変珍しい…らしいが凡人の自分には普通のヤドカリにしか見えなかった
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滞在中何度も飲んだヨーグルッペ

鹿児島空港では1日目に購入したガスボンベ3本を持ち込み禁止物として回収してもらった。
ほぼ未使用のガスボンベ3本。結局1本の10分の1くらいしか使わなかった。
「空港は廃品回収業ではないでごわす!」と凄い剣幕の薩摩弁で捲し立てられたらどうしようと心配したものの、
薩摩の係員さんは笑顔で受け取ってくれた。薩摩の人は優しかった。
もしかしたら今日夕飯で使う予定のボンベが切れていて必要だったのかもしれない。
意図せず薩摩の人を救ってしまったかもれしれない、とハッピーな妄想をしている脳みそに売店で売っていた薩摩揚げを買って与える。
うまい。口の中いっぱいに鹿児島が広がる。
昨晩飲み残した焼酎も進む、進む。
もはや旅人というよりただの酔っぱらいである。

出発まではまだ時間があったので空港内を見学したり、日焼けした足で足湯に浸かり悶絶したりして過ごした。

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空港内にあった無料の足湯、日焼けした足には激痛だった
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旅の終わり

全4日間の日程中、3日目の深夜以外はずっと晴れていたので、
南の島らしい素敵な4日間を過ごすことができた。
のどかな風景、ゆったりと流れる時間、綺麗な海、種子島は素敵な島であった。
今度行くときはちゃんとホテルに泊まって、もっと島にお金を落としたいと思う。

余談だけど、この時打ち上げられた衛星「みちびき」はGPS衛星として、日本の上空にいる。
GPSをONする度に、あの時目の前で打ちあがった衛星が手元で繋がるという見えない繋がりに、
今でも想いを馳せてしまう。

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結局買って帰った焼酎(重かった…)