土曜日、朝から調子が悪いという身重の妻に代わり、
朝食の片づけ以降の家事を一手に引き受ける。

まずは洗い物。好きか嫌いか問われれば普通だ。残った食器を洗うだけの作業に可も不可もない。時折朝食を作るために使われた大量の調理器具が残っているとイラっとしてしまう自分がいるのだけど、そんなときはパートナーに対する自分の愛が足りないのだと思って受け流すことにしている。

緑色のゴム手袋をしながら食器を洗っていると、息子くんから歯を磨いて欲しいと要望が入る。要望といっても明確な言葉になっているわけではなくて口を指さしつつ「ふぅ~んふぅ~ん」と言いながら足元に引っ付いてくるのだ。
モノ好きな男だ。こういうのは普通はお母さんにやってもらいたがるものだろう……と内心思いつつも指名が入った事実に数ミリ心が弾む。
「ぐりぐり~」「しゃかしゃか~」と某テレビ番組はみがき上手かなの歌を歌いながら息子くんの歯を磨く。
この歌は最近Perfumeが歌っていることを知ったのだけれど、感想としては「俺もPerfumeにぐりぐりしゃかしゃかされたい…(色々な意味で)」という偏差値3くらいの低レベルな感想しかなく、それでも一体どれだけ世のお父さん達が「俺もぐりぐりしゃかしゃかされたい…」と思ってしまうのか想像してみると多分3分の1くらいはいそうな気がするし、そういう偏差値3の同志とはうまい酒が飲めそうな気がする。
だって、Perfumeにぐりぐりしゃかしゃか、されてみたいじゃないか。


そんな夢膨らませた父のやましい心を察したのか息子くんは仰向けの状態からひっくり返ろうと試み始める。
おいお前、まだ終わってないぞ。
両肩に股がり、頭を鷲掴みにして磨き続ける。抵抗むなしく拘束された息子くんはなすすべもなくこの世の理不尽を絶叫し全力で泣き叫ぶ。傍から見れば若干の暴力性を伴う絵面である。
ごめんな、理不尽だよな、歯磨きだけでがんじがらめにされるなんてな。でもしょうがないよね、やるしかないし。だけど大きく口開けてくれて磨きやすいは、ありがとな。
そんな拷問チックな歯磨きを終えたことを褒めちぎり、中途になっていた洗い物も片づけると、今度は絵本の時間が始まる。

我が家では歩いて5分ほどのところに市営の図書館があって、2週間に1回程度、妻が適当な絵本を借りてくる。
近くに図書館があるというのは子育て世代にとってはありがたい存在で、わざわざ自分達で買わなくて良いし、反応が悪ければ返却すれば良いのでお財布にも優しい。借りてきた本で子供の反応とか傾向と対策を掴んでから、プレゼントする本を選ぶ、なんてこともできるわけだ。
読み始めると1冊を延々と30分リピート再生させられることもあってウンザリすることもあるけれど、この日は6冊を1周、20分程度で満足してくれたので助かった。

絵本の後は近くのスーパーへ買い出しへ向かう。
子供を連れての買い出しは歩くスピードが落ちるので予定が詰まっている時にはせわしないけれど、 特に予定もない天気の良い休日は丁度よい気分転換になる。まもなく訪れる春の暖かい陽気と目を騒がしくさせるような若干の花粉を感じながら、ゆっくりと歩く。

買い物から帰ったらお昼の準備。
今日のメニューは大人が酸辣湯麺、息子くんはうどんだ。
息子くんはご飯が楽しいのかやたらに機嫌が良く、楽しくなりすぎたのか中々ご飯が進まない。結局中途半端にお腹が満たされて手が止まってしまい「食べよ?→食べない」の押し問答を10分間に渡り繰り広げた末、うどんは取り上げられた。


お昼ご飯の後はお昼寝がルーティーンになっている息子くんは、泣き止んだ後、すごすごと哀愁漂わせながら布団へ向かった。

食器の片づけをしたら束の間の自由時間がやってくる。
英語の英文法をやりはじめたものの、眠気が襲ってきたので諦めて布団に横になってしまう。 何たる自分の意思の弱さ、不甲斐なさを感じながらも眠気には勝てない。 それとも覚悟が足りないだけか。

お昼寝から起きたら、息子君にお昼で残ったうどんを与える。
今度は遊ぶこともなく、ものの5分でガツガツと食べ完食。
それそれ、さっきもそうやって食べてくれ~と思いつつ、しっかり食べられたことを褒めちぎってあげる。ありがとう。きっとうどんさんも喜んでいることだろう。

ここでようやくテレビを付ける。
我が家ではテレビは1日1~2時間程度しか見せないようにしている。 テレビの存在が教育的にどうなのかは全くもってわからないけれど、テレビの時間が多くなりすぎると事あるごとにテレビをせがまれるようになるし、 テレビみたいな一方通行の刺激より、絵本とかの読み手と聞き手、双方向のコミュニケーションが生まれる刺激のほうがやっぱり子供にとっては良いような気がする。
というのが実際に子育てをして感じた感想だ。その分大人は大変だけども。
というわけで、天下のヒーロー、アンパンマンに御登場いただく。

さて、テレビを付けたということはその分自由時間ができるということだ。
この時間は大変貴重な時間で、家事を進めるのにもってこいの時間だ。
早速晩御飯の仕込みにとりかかる。今日の夕飯はエビチリ。
ねぎを切ったりエビの背ワタを取ったり、こまごました作業を進める。
こういう作業をパパっとできるようになりたいなと思いつつも、結局ほぼ30分使って仕込みを終える。

Concrete roads
ふるさと納税でいただいたエビ500gを使うの図



テレビを終えると今度はお風呂の時間だ。
お風呂に入りたくないのかおもちゃで遊びたかったのか、脱衣所で意味不明に泣きわめている息子くんの服を無理やり脱がして、一緒にお風呂へ入る。
体と頭を洗うルーティーンをこなせば、すっかり泣き止んでご機嫌に。でもその間ずっと「大丈夫!」「君ならできる!」と鼓舞し続けるのもなかなか大変である。というか、洗われているだけなんだし、そりゃできるに決まっている。
お風呂に浸かっている間は歌を歌う父とおもちゃで遊ぶ息子くんというのがいつものお決まりの構図だ。
ドからドまで2オクターブ分を下から上へ、上から下へと声に出して歌う父と、 終わるたびに拍手をしてくれる息子くん。かわいい。 そんな小さい拍手に気をよくして本気で合唱曲を歌いだす父、 今日は大地讃頌、走る川、モルダウをチョイス。 お風呂場にテノールやらアルトやらソプラノのパートが響き渡る。夜なら近所迷惑になるだろうけど、夕方だから多分セーフ。多分。

お風呂を上がると夕飯の作成に取り掛かる。
エビチリをちゃちゃっと仕上げる。
息子くんにはチリソースは辛いので、途中でエビを取り分けてケチャップと醤油で適当に味付けする。
お昼の攻防があったからかお夕飯は素直に食べてくれた息子くん。
ありがたい。

Concrete roads
エビってあるだけで豪華に見えるよね

夕飯後、また歯磨きのご指名が入る(本日2回目)。
そしてやっぱり途中でひっくり返ろうとする息子くんと、はみがき上手かなを歌いながらそれを阻止する父。泣き叫ぶ息子くん。いい加減慣れてくれ。
そんな父の頭の片隅にはやっぱりPerfumeが。

そんなこんなで休日の何もない1日が終わっていくのであった。

こうして書き出してみると、おおなんて平凡な日常なのだろう。
平日は慎ましく働き、休日には家族でスーパーへ行き、安い食材を購入・調理し、ささやかな食卓を家族で囲む。 それが幸せであると認識しつつも、ありふれた日常に埋もれていく感覚をやっぱり覚える。
自分の可能性の欠片が無くなっていって、丸一日自分のためだけに使える時間や欲望なんてものはもはや贅沢品にさえ感じてしまうけれど……

そういうささやかな日常こそ、やっぱり幸せなのだろう。