常々思う。
バリウム検査、あれは一種のアトラクションだと。
始まりから終わりまで、全てが非日常的な要素に富んでいる。

まず、薄暗い診察室に入室すると手術台を90度起こしました、みたいなどでかい診察台が登場して圧倒される。
看護師さんに言われるがままスリッパを脱いで乗っかる。
ロボットアニメとかで見たことあるぞ、こういうの。
思わず頭の中でロボットの出撃シーンが流れ、
このまま台ごとカタパルト射出されないか一抹の不安を覚える。

そんな心配を他所に、右手に龍角散ダイレクトみたいな粒粒の入った発泡剤を手渡される。「一体何が始まるんです?」と尋ねる暇もなく、テキパキと準備を進める看護師さんの合図で発泡剤を飲み込み、その後手渡される少量の水で、テキーラをグイっとあおるロシア人がごとく発泡剤を流し込む。
直後、昨晩の夕飯以降何も食べていなかった胃袋くんが突如として殴り込みをかけてきた発泡剤にびっくりしてゲップを起こそうとする。

これが無理。
ゲップが出るものを飲んでゲップするなとかいう、一発芸大会でもなければお願いされないようなことを強要される。
初めてバリウムを体験するとほぼ確実にゲップしちゃうくらい初見殺しだし、ゲップしたらゲップしたで”追い発泡剤”を強要される(た)。
経験者ならともかく、初めてバリウム検査をする人には事前にコーラを飲んでゲップしないよう練習しておいてくださいって案内をしてほしいくらいだ。

胃袋くんが必死に出そうとするゲップを唾を飲むなどして封じ込める戦いを繰り広げていると、今度はバリウムの入ったラージサイズの紙コップを手渡される。
受け取ると、ズシリと重い。
頼んでもいないのにラージサイズ。
中をのぞくとねるねるねるねみたいなデロデロの液体が入っている。
ていうか、量多すぎでしょ。
ねるねるねるねだってせいぜい50mlなのになんで200ml近くも入ってるんだ。

合図され、ねるねるねるねみたいなデロデロの液体を飲み込んでいく。
ごくりんごくりん。
思わず牛乳を飲むスタイルで右手を腰に当ててしまう。診察台のところだけオレンジ色のライトが当たっているのでまるで舞台のようだ。ようやく朝ごはんにありつけた人間の演技を、私は今しているのか。
今日最初の朝食、目覚めの一杯。
人間らしい尊厳のある朝食とは対極的に位置する非人道的液体をごくり、ごくりと流し込んでいく。
っていうか、イッキ飲みさせられてるけど、大学生の時にイッキはしちゃいけないって教わったじゃないか。
そんなことを考えていると看護師さんから「いいですねぇ~」と声をかけられ一瞬心が躍る。イッキも悪くない。

頭の中には堤真一が常夏の海でビールを飲んで「あ゛~!」って言ってるCMとか、古いラーメン屋さんに飾ってあるビールジョッキを持って満面の笑みを浮かべている在りし日の藤原紀香とかが浮かんできて、今ならバリウムを飲むCMに自分が抜擢されてもいいんじゃないかってくらいの気持ちと若干の誇らしさを覚える。

ようやく飲み終える。頑張った。
「まずい、もう一杯!」
そう言いたくなる気持ちを抑え、ラージサイズの紙コップを指定の場所に置く。
勢い余ったのかバリウムが口からこぼれてしまい、ソースを垂らした食いしん坊みたいになってしまったので、用意されたティッシュで口元をぬぐう。つらい。

バリウムを飲み終わると、いよいよ台が上下に動き出す。いざ、出陣である。

看護師さんがガラス越しの部屋からマイクでこちらに向かって右半身を傾けろとか体を一回転させろという指示を出してくるので素直に従う。
検査台の上で駄々をこねる子供よろしく、体をぐるんぐるんと回転させている姿は本当に滑稽である。
そして回っていると胃の中に収めたバリウムくんが思わず逆流してきそうになるのでこれも必死でこらえる。
もっとこう、回るたびにご褒美が与えられるシステムとかにならないのか。税金の還付金が増えるとかご飯の大盛りが無料になるとか髪の毛が増えるとかそういうご褒美の類のやつだ。猿回しの猿だってご褒美もらってるんだから。

結局、今回は右回りで6回転くらい回された。
去年はこんなに回らなかった気がするぞ。
まさか年齢とともに回転数が増えるシステムじゃあるまいな。

ようやく診察台が元の位置に戻ってくる。
これで終わり…かと思いきや、ウィーンという音と共に、ゴルフボールがついた肩たたきみたいな棒が出現する。
一体どこに隠れていやがったんだ。
登場するタイミングといい登場スピードといい、笑いを誘いにきているとしか思えない。
この謎の棒が腹部を押してくる。何で押してくるのかはわからない、謎である。
グググっと押されると思わず「ぐぇ」と声が出そうになる。
でも押されるたびにあえて「ぐぇ」って言ったら看護師さんも笑ってくれるんじゃないかとちょっと想像を膨らませてしまう。

ていうか棒で押すって原始的過ぎない?
今2021年よ?

4度ほど腹部を押すと満足したのかウィーンという音を出しながら謎の棒は機械の真横に格納されていった。
お前、そこに隠れとったんか。

ということで人生3度目、やっぱり終始ニヤニヤしてしまうバリウム検査なのであった。