12月の自分の誕生日に熟成肉を食べた話。

12月9日、翌10日は自分の誕生日だ。
大人になってから自分の誕生日に何か特別なことをやるなんてことはほとんどしていなくて、ここ数年はもっぱら”普通に過ごす”ようにしてきた。
そんな数年に渡る抑圧がついに解放される瞬間がやってきたのか、気付けば仕事を終えた後、東京は文京区の茗荷谷で降りていた。

目指すは熟成肉の店中勢以である。

なんで熟成肉のスイッチが入ったのかは自分でもよくわからない。多分たまに目にする熟成肉のニュースとか(格之進の”うにく”とか)に無意識に影響されていたのかもしれない。 まあ、理由なんてどうでもいい。今はただ、うまい肉が食べたい、それだけだ。

うん、肉、いいじゃないか。
誕生日に、肉、いいじゃないか(孤独のグルメ風に)。

ということでお店に到着、入店。薄暗い店内の中央にはショーケースの中に熟成肉が堂々と鎮座している。 まるで田中貴金属の店内かってくらいの神々しさである。
ショーケースに入った肉なんて、こちとらニュークイックでしか見たことないぞ……。
その落差に驚く。なんだこれは。
アマゾンの原住民族が初めて電車や飛行機を見た時のようなものに違いない。
未知との遭遇である。
頭の中では「牛肉の宝石箱や~!」と彦摩呂が実況中継している。煩い。

001
神々しく輝く牛肉たち


けれどもまずは、無事に入店できて良かった。靴はリーガルのストレートチップを履いてきた甲斐があった。 普段履きしているワークマンの1500円のスニーカーなんて履いてった日には、もしかしたら入店すらできなかったかもしれない。 (でも子育てしてると公園のどろんこ遊びで革靴なんて履けないし必然的にコスパ重視になってしまうのはしょうがない)

店員のお兄さんが気さくに話しかけてくれたので、素直に初めて来店したことを伝えると、 それぞれの部位の特徴を一通り教えてくれた。ありがたい。
ワタシ、オニクシロウト、ヨクワカリマセーン。

ということで暫しの勘案の末、ランプとカメノコをチョイス。
オーダー後、目の前で切られていく肉。やっぱいいですぅー!なんて引き返すことはもうできない。
そしてお支払い、提示された金額は…なんと17000円。
マジか。提示された金額に一瞬たじろぐ自分。
牛肉だけで1万円オーバーなんて、かつてない買い物である。
旨い肉が食べたいと意気込んで、こんな高級店に迷うことなく足を運んだ自分だが、普段は100g100円の豪州ビーフで歓喜しているような低所得者な人間なのだ。 クーリングオフ効きますかと思わず聞きそうになるが、この肉たちが胃袋に転がり込んだ後、クーリングオフなど何がどう転んでも不可能なことは自明の理である。
とにかく、今回はやると決めたのだ。うまい肉を食べると。 男に二言はない。すました顔でカードを提示する。

切られた牛肉はお兄さんがその場で竹の皮に包んでこしらえてくれた。
いや竹の皮っておにぎりか!と突っ込みたくなる自分をこらえる。
うん、きっと何か理由があるに違いない。雑菌の繁殖を抑えるとか肉の水分率を逃さないとかそういう類の効果だ。 わからないことには口を出すな、長いものには巻かれろ。大人になってから覚えたことだ。
そう、自分はもう大人なのだ。32歳になって17000円の牛肉をカードで買える大人になったのだ。
さも当然、というすました顔で成り行きを見つめる自分。
(緊張で額にはじんわりと汗をかいている)
ええ、やっぱり牛肉を持ち運ぶには竹の皮ですよね、わかっていますよ。
(わかっていない)

002
竹の皮に包まれた牛肉なんて初めて見たよ(血統書付!)


さて、会計も終わり厳重に包装されたお肉(もとい、金塊)を受け取ろうとすると…
「(お店の)前までお持ちします」とのこと。
って服屋か!と突っ込みたくなるサービスが。牛肉を買ってお店の前で受け渡しなんて、これまた初めてである。何から何まで突っ込みどころが満載だ。

そんなこんなでゲットした金塊を、高ぶる高揚感と若干の罪悪感との板挟みで変な気持ちになりつつ、帰宅したのであった。
そう、やはり多少の罪悪感は感じずにはいられなかった。 だってグラム数千円のお肉ですよ。帰りの中づり広告で目にした「世界では3食満足に食べられない子供たちがいます」なんて広告が、 いつになく心に響いたのは気のせいではないはずだ。
でも前澤さんが宇宙にいった金額と比べてみたら、前澤さんは58万回以上このお肉を食べられる計算になったので、 そう考えると心が軽くなったような気がした。
うん、経済を回してるだけ、多分えらい。

そんなこんなで翌10日は、この金塊を調理して食したのであった。
食レポは書けそうにないのでやめておく。
旅は出で立つ前が最も楽しく、女は後ろ姿が最も美しいのと同様、肉は買って帰る時が最も楽しい時なのだ。きっと。
けれどあえて言葉に残しておくならば、甘く、そして旨かった。旨味が凝縮されていた。 でも値段に比例して旨味が増えているわけではなかった(当たり前か)。
あとどうせ食べるなら、熟成肉同士で食べ比べるんじゃなくて、 400g1000円くらいで売ってるスーパーのステーキ肉とかと食べ比べてみれば良かったと思う。

そんな贅沢をした、32歳の誕生日でありました。
皆様も何かの折に熟成肉、是非チャレンジしてみては。

003
ものの数十分で胃袋へと消えてしまった金塊達。